ベラドンナの部屋

アークティック・モンキーズの歌詞を語ります

Too Much to Ask / Arctic Monkeys【和訳】

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愛が終わったとき、冬の日の魔法瓶みたいなぬくもりは、二度と帰らないことを知る ーToo Much to Ask

ご機嫌よう、ベラドンナです。
すっかり春めいたかと思ったら、また真冬に逆戻りの寒さですね。
こんな夜には、アークティック・モンキーズの冬に沁み入る叙情的な失恋ソングを。

本日鑑賞するのは、"Too Much to Ask"。"Fluorescent Adolescent"のB面曲です。
こちらは、ひたすら若くて青くてアンニュイなアコースティック・バージョンです。歌い方もギターの音色も切なすぎます。


どれほど喧嘩してもキッチンでふざけあえばすぐに仲直りできていた"Mardy bum"の頃には、もう二度と戻れなくなってしまった二人の歌、という感じです。野田洋次郎が言うところの「忍法・記憶喪失」が効かなくなった状況ですね。"505"とも地続きに感じられますし、"Do Me a Favour"ではついに迎える別れのシーンそのものが描写されます。

アレックスの書く歌詞に出てくる女の子はだいたい、喜怒哀楽が激しくて主人公を振り回しますが、この曲についてもまさにそうですね。振り回され続けて疲れ果て、愛想を尽かしつつも離れがたい愛着があって板挟みになる、愛憎入り混じった関係を描くのが、アレックスは実に上手いなと思うんです。これは経験せざる者には絶対書けない!(確信)

恋人に対しては喜怒哀楽を激しく容赦なくぶつけてしまう、ちょっとめんどくさい彼女に対して「あぁ、この感じ分かるわー」と共感する一方で、やれやれと疲れ果てて途方に暮れる彼氏側の視点にもグサリとやられるんですよね。「きっといつもそう思わせてたよね、本当に横暴でごめん」って、昔の恋人に陳謝したくなりますが、叶わないので今夜もアレックスの歌を聴きます。

この曲が凄いのは、彼女が放つ"If you loved me-"の一言で、二人の性格も関係性も、流れる空気感もすべて表現しているところじゃないでしょうか。振り回されても常に誠実に彼女を愛しているつもりの主人公にしてみれば、「もし愛してるなら」なんて言われるのは心外なんです。「どうして分からないんだよ。だいたい今更なんでそんなことを…」って内心カチンときてるに違いないけれど、彼はそこでグッと飲み込んで止める冷静な男なのでしょう。こういう男の動じなさに、女はまたヒートアップしたりするもので、負のスパイラルに嵌ると出口はありません。この歌の主人公も、最後には「もう戻れない」と確信に至ります。

何を話してもどこに行ってもすぐ喧嘩になって、延命措置みたいにセックスに耽った経験、覚えがある方も多いのでは?「寒いから、雨だから、ちゃんとした格好してないから出かけるのはやめよう」と言い、寝ても覚めても瞳の輝きが戻らない彼女からは「なげやりな別れの気配」が濃厚に漂います。背中にそっと触れる胸には、もう戻れない…

随分長くなってしまいましたが、歌詞に参りましょう。

 

The smiles as she walked in the room
彼女が部屋に入ってくる時の笑顔は
Have all turned into frowns
全部しかめ面に変わった
Am I too quick to assume that the love is no longer in bloom?
もう愛は枯れてしまったと思うのは早合点しすぎかな
The tantrums and the tears play a very different tune
癇癪と涙はまるで違う曲を奏でてる
To what they did before, her head's red raw
前やったことに、彼女の頭は怒りで生焼け
And the ending doesn't sound like the happiest around
エンディングが一番幸せそうには聞こえないし
When you sobbed before
君が泣きじゃくる時、これまでは
It felt much more like the product of a squabble
つまらない喧嘩の産物みたいなものだと思えたけど
Now there's reason for it to be something more
今はそれ以上の理由があるんだ

And there would be, oh, it's uncertain
きっとそうだろう、ああ、確かではないけどね
Whether the curtain has shut for good
永久に幕が閉じてしまったのかどうかは
She said, "See if it's still raining, I'm not dressed for it"
彼女は言った「まだ雨が降ってるか見てよ、私はちゃんとした格好してないから」
And, "If you loved me-"
「もしあなたが私を愛してるなら...」
And I interrupted, received a scowl and stare
そこで俺が遮ると、しかめ面されて睨まれた
But still decided to stop her there
それでも、彼女をそこで止めることにしたんだ

Would it be outrageous to say
こう言っちゃったらひどすぎるかな
We're either shouting or we're shagging?
俺たちは喧嘩してるか、セックスしてるかのどっちかじゃない?
Docked in tempestuous bays
荒れ狂う湾に停泊して
Or at least that's how it felt yesterday
少なくとも昨日はそう感じたよ
The eyes are getting heavier
瞼は重くなってく
And whether you're asleep or awake
寝ても覚めても

Is a mystery
謎だよ
Would a kiss be too much to ask?
キスは望みすぎかな?
When you fit me
君と俺がしっくりきてた頃
As Sunday's frozen pitch fits the thermos flask
日曜日の凍った地面と魔法瓶がぴったり合うみたいに
It's a pity
悲しいけど
It just hit me, we can't go back
分かったんだよ、俺たちはもう戻れないんだ
To the chest touching on the back
背中にそっと触れる胸には