ベラドンナの部屋

アークティック・モンキーズの歌詞を語ります

The View from the Afternoon / Arctic Monkeys【和訳】

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期待すると失望するのが常。それを知っても期待してしまうのが常。今夜こそは、このバンドこそはいつもと違うんじゃないかって。衝撃のデビューアルバム、最高に熱くて醒めてて挑発的な1曲目。 ーThe View from the Afternoon

 

Good Afternoon、ベラドンナです。普段は深夜に執筆していますが、この曲は夜になる前、明るいうちに書かなきゃいけないんです。それも休日の。本当は土曜日の午後に鑑賞するのがベストな曲なのですが、休日はすぐに溶けて指を擦り抜けてしまうもの。あっという間に日曜になってしまいました。また労働の月曜日が始まります。

2006年にリリースされるやいなや、英国のアルバム最速売上記録を更新してしまったもはや伝説的な*1アークティック・モンキーズのデビュー作「Whatever People Say I Am, That's What I'm Not」の冒頭を飾るのがこの曲、"The View from the Afternoon"。曲が終わったと一回見せかけておいて、実は終わっておらず、一瞬の静寂のあとにブワーッとまた再開するところ、カッコ良すぎます。最後がちゃんとオチになってるんですよね。期待なんてするもんじゃないと忠告して終わると思いきや、最後にまた悪魔の囁きを吹き込んでくるという。

「期待の新人」とメディアに持てはやされていた当時ティーンエイジャーの若者が、デビューシングルのMVでは「Don't believe the hype(誇大宣伝を信じるな)」と訴え、デビューアルバムの1曲目では「期待すると失望するのが常」と言い放つのって、すごくクールだと思いませんか。しかも、直接的にではなくて、あくまで「土曜の午後、夜遊びに繰り出す前の期待と、その後待ち構えている失望」を歌う中で、隠喩的にメッセージを発しているわけです。

前にも少し触れましたが、このアルバムはアラン・シリトーの『土曜の夜と日曜の朝』(1951)という小説の影響を受けており、タイトルもそこから引用されています。平日の工場でのきつい肉体労働と引き替えにそれなりに良い給料を得て、金曜の夜から土曜の夜にかけて盛り場に繰り出して酒と女と喧嘩に精を出す若者が、靄が晴れて日曜の朝になると人生について考え始めたりする、小気味良い青春小説です。

それ以前はハイソな人々の専売特許だった英国の文壇に、ほとんど初めて登場した労働者階級出身の作家なんだそう。もっとも、本人はそのレッテルを嫌ったようですが。そりゃあ、"Whatever People Say I Am, That's What I'm Not"ですもんね。もう絶版ですが、日曜のサザエさんを見ると憂鬱になるベラドンナのような方なら共感すること間違いなしの、おもしろい小説なのでぜひ多くの方に読んでほしいなと思います。

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このアルバムは短編小説集のような展開になっていて、1曲目のこの曲は土曜の午後を歌い、続く"I Bet You Look Good on the Dancefloor"をはじめ多くの曲で土曜の夜(的なもの)を歌い、最後から2曲目の"From the Ritz to the Rubble"はその結末としての日曜の朝を歌っています。ラストを締め括る名曲、"A Certain Romance"はそれらを総括して、「ここは退屈で、本当のロマンスなんて見つからないんだ」と地方都市郊外の憂鬱を結論づけます。山内マリコの小説『ここは退屈迎えに来て』(2012)の男子バージョンって感じでしょうか。


この歌詞に出てくる「酔ってる時に女の子にメッセージを送ったりしても相手にされないよ」というテーマは、2013年の"Why'd You Only Call Me When You're High?"にも引き継がれています。ベラドンナの周りもそういう男性陣は多いので、みんなアークティック・モンキーズ を聴いて学習してもらいたいものですが、「あー、わかるわかる!」って親しみを禁じ得ません(笑)

好きすぎて思わず長々と語ってしまいました。ライブで盛り上がる定番曲なので最近でもよく歌われていますが、この曲については何と言っても初期衝動を感じてほしい!!ので2005年のロンドンでのライブ映像を載せます。画質はあまり良くない映像ですが、方言でまくしたてるように歌い、全力でギターを掻き鳴らし、観客を煽り、集団の熱狂的なエネルギーを生んでいる様子がよく分かります。うっかり触れようものならヤケドしそうな熱"The View from the Afternoon"は13:32から始まります。

さてさて、歌詞にまいりましょう。

Anticipation has the habit to set you up
For disappointment in evening entertainment, but
期待っていうのは、夜のお楽しみでは人を失望に陥れるのが常だけど
Tonight there'll be some love
今夜はきっと何か愛が見つかるさ
Tonight there'll be a ruckus, yeah
今夜はきっと騒がしくなるさ
Regardless of what's gone before
今までどうだったかとは関係なしに
I want to see all of the things that we've already seen
もう見たことのあるものを全部見たい
The lairy girls hung out the window of the limousine
イケイケな女の子たちがリムジンの窓から身を乗り出してるんだ
Of course it's fancy dress
もちろん仮装してね
And they're all looking quite full on
彼女たちはみんな、かなり強烈な仕上がりなんだ
In bunny ears and devil horns and how
ウサギの耳と悪魔の角で、ほんとにね

Anticipation has the habit to set you up
For disappointment in evening entertainment, but
期待っていうのは、夜のお楽しみでは人を失望に陥れるのが常だけど
Tonight there'll be some love
今夜はきっと何か愛が見つかるさ
Tonight there'll be a ruckus, yeah
今夜はきっと騒がしくなるさ
Regardless of what's gone before
今までどうだったかとは関係なしに
I want to see all of the things that we've already seen
もう見たことのあるものを全部見たい
I wanna see you take the jackpot out the fruit machine
君がフルーツマシン*2で大当たりを出すところが見たい
And put it all back in
それで、結局は全部擦っちゃう羽目になるんだ
You've got to understand that
君は理解しなきゃ
You can never beat the bandit, no
山師に勝てるわけないってね

And she won't be surprised and she won't be shocked
あとさ、彼女は驚かないしショックも受けないだろうよ
When she's pressed the star after she's pressed unlock
ロック解除してスターボタンを押したとき
And there's verse and chapter sat in her inbox
彼女の受信ボックスには詩と章句が鎮座してるんだ
And all that it says is that you've drank a lot
それが物語るのは君が飲みすぎたってことだけ
And you should bear that in mind tonight
今夜はそれを心に留めておくんだ
Bear that in mind
肝に銘じて
Yeah, you should bear that in mind tonight
そうだよ、今夜はそれを心に留めておくんだ
Bear that in mind
肝に銘じて

And you can pour your heart out but her reasoning will block
それで、君が心を注いだところで、彼女の理性がブロックするだろうね
Owt you send her after nine o' clock
君が9時以降に送るものなら何でも

Anticipation has the habit to set you up
For disappointment in evening entertainment, but
期待っていうのは、夜のお楽しみでは人を失望に陥れるのが常だけど
Tonight there'll be some love, oh
今夜はきっと何か愛が見つかるさ
Tonight there'll be a ruckus, yeah
今夜はきっと騒がしくなるさ
Regardless of what's gone before
今までどうだったかとは関係なしにね

And she won't be surprised and she won't be shocked
あとさ、彼女は驚かないしショックも受けないだろうよ
When she's pressed the star after she's pressed unlock
ロック解除してスターボタンを押したとき*3
And there's verse and chapter sat in her inbox
彼女の受信ボックスには詩と章句が鎮座してるんだ
And all that it says is that you've drank a lot
それが物語るのは君が飲みすぎたってことだけ
And you should bear that in mind tonight
今夜はそれを心に留めておくんだ
Bear that in mind
肝に銘じて
Yeah, you should bear that in mind tonight
そうだよ、今夜はそれを心に留めておくんだ
Bear that in mind
肝に銘じて

And you can pour your heart out around three o' clock
それから、3時くらいになって心を注げばいいんだよ
When the two-for-one's undone the writer's block
半額セールが作家のスランプを解き放つときにね*4

 

*1:ベラドンナの愛の暴走により、いわゆる"hype"的表現になってしまいました。ご容赦ください。

*2:「7,7,7」など絵柄を合わせるスロットマシン。私の中では田舎のボウリング場に置いてあるイメージなのですが、イギリスではバーによく置いてあるそう。

*3:ノキア社のガラケーでのロック解除方法。ゼロ年代も遠くなりにけり。

*4:two-for-oneが何を意味しているのかは悩みましたが、前段の3 o'clockから2,1とカウントダウンのように続いていて面白いですね。サタデーナイトも佳境を過ぎて愛の安売りタイムが始まる頃でしょうか。