ベラドンナの部屋

アークティック・モンキーズの歌詞を語ります

505 / Arctic Monkeys【和訳】

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すれ違いばかりの遠距離恋愛。別れた方がいいって分かってるけど、君の涙を見たら、笑顔を見たら、とても別れられないよ。まだ俺はちゃんと、君のことを好きなのかな。とにかく505に帰らなきゃ。 ー505


こんばんは、ベラドンナです。
春を求めて散歩に出かけてみたら、夏の日差しに不意打ちに遭いました。我が春はいずこへ。

今夜は、最近TikTokで流行ったらしく、Spotifyのチャート上位に浮上しているアークティック・モンキーズの15年前の名曲、'505'を和訳します。2007年リリースの2ndアルバム「Favourite Worst Nightmare」のラストを飾る曲です。最近の若者(←こんな老害めいた言葉を使う日が来てしまったとは…)にも刺さるんだなと思うと、なんだか嬉しいです。

アレックスの好きな映画音楽の巨匠モリコーネがサウンドトラックを担当した西部劇『続・夕陽のガンマン』(1966)のクライマックスシーンで流れる2つのコードだけで作曲されています。メロディも基本的にずっと同じで静かに進行していくのですが、"But I crumble completely when you cry"からの爆発力が半端じゃありません。サウンドと言葉が合わさって、行き場のない感情の高まりがヒリヒリと伝わり、情動が掻き乱されます。

アレックスが「初めて書いた、いわゆるラブソング」と語っているこの曲。観察者としてのちょっと醒めた目で綴ってきたそれまでの歌詞とは違って、パーソナルな感情を深く掘り下げた私小説的な歌詞であり、アレックスの中でもターニングポイントになった曲のようです。「大好きな最悪の悪夢」と名付けられたこのアルバム自体が、全体的に、1stアルバムでの成功とそれがもたらした取り巻く環境の変化を主に描いている作品だと思いますが、505は「一躍ロックスターになってしまったがゆえに、遠距離になってすれ違ってしまった恋人との話」なのでしょう。

アークティック・モンキーズの中ではかなり口ずさみやすい曲で、ライブでも大合唱が起きます。「505」を自分の昔の恋人の部屋番号に替えてみたりすると、すごく気持ちよく熱唱できたりするのでオススメです。って、こじらせベラドンナだけですね(笑)

ところが、歌いやすさとは裏腹に、歌詞はかなり難解です。聴く人によって、そして聴く人の個人的な経験や思い入れによって、解釈がそれぞれ分かれると思います。実際、海外の掲示板でも様々な考察が活発に飛び交っています。彼女が太ももに手を挟んでいるのは、待ちくたびれて寂しそうな様子なのか、物欲しげなポーズなのか、ウルビーノのヴィーナスのような艶かしさなのか。彼女が主人公の首元に手をまわすのは、単にバックハグ的な親密さの表現なのか、はたまたもっと過激な何かなのか。そして、主人公は505に帰ってどうするつもりなのか。日本の歌でもそうですが、一つの決まった物語しか聴き手に解釈を許さないような歌詞よりも、この曲のように聴き手に解釈の余地を残す歌詞に、私は魅力を感じます

まず、タイトルの「505」ですが、素直に考えると「彼女がいる部屋の番号」なのかなと思います。他には、彼らの故郷のシェフィールドのバス路線の番号という説もありますし、ローリング・ストーンズの'Flight 505'(「失われた何かを取り戻しに505便に乗る」という歌)へのオマージュという説もあります。Urban Dictionaryというイマドキの言葉やスラングを解説するサイトによると、505には「自分を生かすとともに命取りにもなるような、好きだけど、一緒にいるときっと不幸になるだろう相手」という意味もあるんだとか。(もっとも、使用例として載っていたのはアークティックの505の歌詞だけでしたが…)

私がこの歌で一番グッときたのは、「たぶん今だって、君に首のあたりに手をまわされたら夢中になるよ。少なくとも前回試した時はそうだった」という箇所です。遠距離でなかなか会えない上に、会えばすれ違って喧嘩ばかり。いったい自分は果たして、まだ相手のことが好きなんだろうかと懐疑的になって。でも少なくとも身体は…と冷静に分析してしまう感じ、分かる気がします。実際のところ恋愛のリアルって、「あなたのことを100%大好きで超幸せです」なんてごく一部でしかなくて、揺れ動くし迷うことも多いし、喧嘩も多いし、他人には言えないような二人だけの過剰さもあるし、時にはシビアな判断を伴ったりもするものではないでしょうか。やさぐれてこじらせたベラドンナには、世の中に溢れる甘ったるいラブソングよりも、アレックスのほろ苦くて正直な歌詞が沁みます。

この曲には、一年後には共にラスト・シャドウ・パペッツとしての活動を始めることになる、アレックスの大親友のマイルズ・ケインがギターで参加しています。ライブの最後に演奏されることが多い505。俯き加減にキーボードを弾きながら、じっと抑えて静かに歌う前半から、溜め込んだ感情を一気に爆発させる瞬間が鳥肌モノです。


さてさて、歌詞にまいりましょう。

I'm going back to 505
505に帰ろう
If it's a seven hour flight or a forty-five minute drive
飛行機で7時間かかろうと、車で45分かかろうと
In my imagination you're waiting, lying on your side
俺の想像では、君は横になって待ってる
With your hands between your thighs
太ももに手を挟んでね

Stop and wait a sec
やめて、ちょっと待って
Oh, when you look at me like that, my darling
ねえ、そんな風に俺を見るとき、愛しい人よ
What did you expect?
何を期待してたかい?
I probably still adore you with your hands around my neck
たぶん今だって、君に首のあたりに手をまわされたら夢中になるよ
Or I did last time I checked
少なくとも前回確かめた時はそうだった

Not shy of a spark
火花なら十分だよ
A knife twists at the thought that I should fall short of the mark
どうせまた君の心の的には届かないんじゃないかって考えが古傷をえぐる
Frightened by the bite though it's no harsher than the bark
刺し傷は怖いけど怒鳴り声よりはマシ
Middle of adventure, such a perfect place to start
冒険の真っ盛り、始まりには完璧な地点さ

I'm going back to 505
505に帰ろう
If it's a seven hour flight or a forty-five minute drive
飛行機で7時間かかろうと、車で45分かかろうと
In my imagination you're waiting, lying on your side
俺の想像では、君は横になって待ってる
With your hands between your thighs
太ももに手を挟んでね

But I crumble completely when you cry
でもさ、君が泣くと俺は完全に打ち砕かれちゃうよ
It seems like once again you've had to greet me with goodbye
またかって感じで、君はさよならを言わなきゃならないんだ
I'm always just about to go and spoil a surprise
俺はいつもすぐに立ち去って、サプライズを台無しにしてしまう
Take my hands off of your eyes too soon
君に目隠しをした手を離してしまうんだ あまりにも早く

I'm going back to 505
505に帰ろう
If it's a seven hour flight or a forty-five minute drive
飛行機で7時間かかろうと、車で45分かかろうと
In my imagination you're waiting, lying on your side
俺の想像では、君は横になって待ってる
With your hands between your thighs and a smile!
太ももに手を挟んで、笑って…

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