ベラドンナの部屋

アークティック・モンキーズの歌詞を語ります

No Buses / Arctic Monkeys【和訳】

にほんブログ村 音楽ブログ 洋楽へ
待ってると来ない。やっと来て乗り込んでみると、そのすぐ後ろにまた来たり。バスも出会いもそんなもの。恋とはいつも、手に入らないものを欲しがるだけの不毛な群像劇。 ーNo Buses

 

こんばんは、ベラドンナです。本日は、土曜に開催されたArcticオフ会でリクエストをいただいた"No Buses"を紹介します。「土曜の夜に期待しすぎるな」と歌う"The View from the Afternoon"を聴きながら向かった人生初のオフ会でしたが、みなさんアークティックへの過剰な愛が溢れるとても素敵な方々で、そんな心配は無用の楽しすぎる宵でした。曲名をはじめ、頭の中でしか発したことがない単語をたくさん聞けて、声に出せて、ものすごく興奮しました。ブログを始めてみた甲斐がありすぎます。書き手冥利に尽きすぎます。

さて、この"No Buses"という曲は、以前ご紹介した"Despair in the Departure Lounge"と同様、EP「Who the Fuck Are Arctic Monkeys?」(2006)の収録曲で、日本のロックバンドの名前にもなっています。イギリスらしい喩えを用いながら、ちょっとシニカルな目線で、恋愛とは何かを考察する面白い歌です。

"Despair in the Departure Lounge"の記事はこちら。


とかく時間に正確なことを当然に期待される日本の公共交通とは大違いで、イギリスのバスは数時間遅れることもザラで、「ずっと見つからない期間があった後に、突然余るほど来てしまう」ことを表す喩えとしてバスがよく使われるそうです。この歌を理解するには、その前提を知っておく必要があります。恋愛のツキを、気まぐれなダイヤのバスに喩えているわけです。(タイトル以外にバスは出てきませんが。)

「誰か良い人いないかな」と前傾姿勢で探しているシングルの時にはまるで見つからないくせに、ようやく見つかったと思って付き合い始めると、「あれ?早まったかな。他にも選択肢たくさんあるじゃん。」と恋愛フラグが突然渋滞し始め、真心に魔がさして、現状に満足できなくなって揺れてしまい、落ち着けない感じでしょうか。恋人がいる時ほどモテる説。こんな経験、覚えがある方も多いのでは?

この現象はきっと、決して偶然ではなくて人の業がなせるもの。映画『アニー・ホール』(1977)でウディ・アレンが「自分を入れるようなクラブには入会したくない」と言っていたように、簡単に手に入るものは魅力的に思えず、手に入らないものほど欲しくなるのが人間なのでしょう。困ったものです。

歌詞の中に「運命の人だと思ってるんだろうけど、彼女だって24人に1人の逸材に過ぎないんだ」という箇所があります。1時間待ってようやく来たバスは、散々待ったという時間と労力を勝手に加味することで、貴重な天からの使いのように思えるかもしれないけれど、毎日1時間おきに24本来るうちの1本に過ぎないんだよという意味でしょう。あまりに主観的な思いこみの罠にはまって、客観性を見失いがちなのが恋という現象ですよね。

ところで、バスを恋愛に喩えた歌といえば、スピッツの『運命の人』(1997)はハズせません。
バスを契機に愛というものを悟る歌というのは共通していますが、こちらは幸せ絶頂の二人。幸福な二人にとっては、ありふれたバスの揺れ方ひとつも永遠になるのです。

バスの揺れ方で人生の意味が 解かった日曜日
でもさ 君は運命の人だから 強く手を握るよ
ここにいるのは優しいだけじゃなく 偉大な獣

愛はコンビニでも買えるけれど もう少し探そうよ
変な下着に夢がはじけて たたき合って笑うよ
余計な事はしすぎるほどいいよ 扉開けたら


それでは、No busesの歌詞にまいりましょう。この動画、なぜ白パーカーのフードを被っているのか分かりませんが、素朴で初々しい感じがかわいらしいですね。来ないバスに、ふと不毛な恋愛の永遠の真理を見てしまうアレックス少年です

 

 

Lady, where has your love gone?
お嬢さん、君の愛はどこに行ったんだ?
I was looking but can't find it anywhere
探してもどこにも見つからないんだ
They always offer when there's loads of love around
愛があり余ってる時はいつも提供されるけど
But when you're short of some, it's nowhere to be found
いくらか足りない時、愛はどこにも見つからない
Well, I know your game, you told him yesterday
やれやれ、君のゲームなら知ってるよ 昨日彼に言ったんだろ?
"No chance, you'll get nothing from me"
「チャンスはないの、私からは何も得られないわ」
But now she's there, you're there and everybody's there
でも今や、彼女も君も、みんな同じ場所にいるんだ
He's in turmoil, as puzzled as can be, just like me
彼は混乱して、この上なく戸惑ってるよ ちょうど俺みたいにね

Let's go down, down, low down
落ちていこう、下へ、ずっと下の方へ
Where I know I should not go
行くべきじゃないって分かってるところへ
Oh, and she, you think she's the one
ああ、彼女ね 君は彼女を運命の人と思ってるんだろ
But she's just one in twenty-four
だけど、彼女は24人に1人の逸材に過ぎないんだ
And just 'cause everybody's doing it
で、単にみんながやってるからって
Does that mean that I can too?
俺にもできるってこと?

Lady, where has your love gone?
お嬢さん、君の愛はどこに行ったんだ?
It was the antiseptic to the sore
それは心の傷への消毒薬だった
To hold you by the hand
君の手を握るためには
Must you first be in demand?
まず君を必要としてなきゃいけないのかな?
How he longs for you to long for him once more
どれだけ彼は切望してることか 君がもう一度会いたいって切望してくれることを
Just once more
もう一度だけでも

Let's go down, down, low down
落ちていこう、下へ、ずっと下の方へ
Where I know I should not go
行くべきじゃないって分かってるところへ
Oh, and she, you think she's the one
ああ、彼女ね 君は彼女を運命の人と思ってるんだろ
But she's just one in twenty-four
だけど、彼女は24人に1人の逸材に過ぎないんだ
And just 'cause everybody's doing it
で、単にみんながやってるからって
Does that mean that I can too?
俺にもできるってこと?

Oh, her eyes went down and cut you up
ああ、彼女は目を伏せて、君の心をズタズタした
And there's nothing like a dirty look from
軽蔑するような目で見られることほど最低なことはないよな
The one you want or the one you've lost
欲しくてたまらない人とか、失った人からね

An ache in your soul, it's everybody's goal
魂の痛み、それがみんなのゴールなんだ
To get what they can't have
手に入らないものを欲しがって
That's why you're after her and that's why she's after him
だから君は彼女を追いかけて、彼女は彼を追いかけるんだ
But saying it won't change a thing
でもそんなこと言ったところで何も変わらない世の常さ

And they'll realise that it won't change a thing
こうして、何も変わらないってきっと気づくんだ
Realise that it won't change a thing
気づけよ 何も変わらないって

 

アニー・ホール [Blu-ray]

f:id:liurisanyue:20220518000752j:image