ベラドンナの部屋

アークティック・モンキーズの歌詞を語ります

Do Me a Favour / Arctic Monkeys【和訳】

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泣きながら恋人をフる世界中のクズ男・クズ女に捧ぐ。別れの理由は、好奇心が重荷になったせい。そんな俺の鼻をへし折ってくれ。フった側の目線で綴られる、映画のワンシーンのような失恋ソング。 ーDo Me a Favour


ご機嫌よう、ベラドンナです。すっかり夏の日差しの、気怠い休日の昼下がりでした。Tranquility Base Hotel & Casino期のライブ映像と一杯の白ワインが一週間の疲労や後悔までも洗い流していきます。

唐突ですが、恋愛ソングの歌詞はちょっと傲慢なくらいの方が好きです。もっと正確に言うと、己の傲慢さやエゴに自覚的に、恋愛を語る歌に共感してしまいます。ブリちゃんの"Oops!... I Did It Again"(♪ああ、私またやらかしちゃった…本気じゃないのに)だったり、ユーミンの"青春のリグレット"(♪私を許さないで、憎んでも覚えてて)、竹内まりやの"プラスティック・ラブ"(♪出逢いと別れ、上手に打ち込んで 時間がくれば終わる)だったり。いい歳なんだから、気分屋と夢見がちは卒業して早く落ち着かないと、痛々しさを増すばかりなわけですが。今日紹介するのも、まさにそんな曲。

ランダム再生で流れてきた"Fluorescent Adolescent"に「私の歌だ!」と共感しまくり、はじめて聴いてみたアークティックのアルバムが「Favourite Worst Nightmare」でしたが、今日紹介する"Do Me a Favour"を聴いて、私のアレックス・ターナーの文才への信頼はさらに確固たるものになりました。別れの理由を「Curiosity becomes a heavy load(好奇心は重荷になる)」と表現するとは、なんてこの人は分かってるんだ!!と。

フった側の目線で描かれる失恋ソングって、結構珍しいですよね。「好奇心を抑えきれないから、君とは別れたい。そんな俺の鼻をへし折ってくれ」とフった恋人に懇願し、「思い上がるのはやめて」とはね返されます。"You could see that we'd cried"と歌っているので、フラれた彼女だけじゃなく、フった本人も泣きじゃくっています自分からフっておいて、無傷ではいられないどころか、多大な心のダメージを負っているこの感じこういう自分勝手でしょうもない、クズ男・クズ女を代弁する歌を、本当によくぞ歌ってくれたと思います。自分が悪いことなんて百も承知なんです。でも、事態はここまできてしまったのだから、こうやって決着をつけるしかないし、悲しむ権利なんてないと言われたって悲しいものは悲しいわけで。

自由恋愛の時代。世の中には恋愛対象になりうる数多の人が存在して、日々新しい出会いも経験する中で、果たして今の相手が最適解なのだろうか、もっと良い人がいるかも…とifの可能性を考えだすとキリがありませんあくまで1対1のモノアモリーを前提とする限り、「選ばなかった選択肢」や「まだ選んでいない選択肢」、はたまた「既にうっかり選びかけている選択肢」への好奇心が限界値を超えると、もう元の関係には戻れなくなってしまうでしょう。

前に"No Buses"の記事でも話題にしたように、隣の芝は青く見え、簡単に手に入るものは魅力的に思えず、手に入らないものや未知のものほど欲しくなるのが人の性です。好奇心の強さは、時に仇となります。イギリスには"Curiosity killed the cat"(「猫に九生あり」と言われるしぶとい猫であっても好奇心を持つと危険なのだから、いわんや人間をや、ですね。)をいう諺もあります。


"The car went up the hill and disappeared around the bend"(車は丘を越えて曲がり角で消えた)という表現が出てきますが、これは"drive someone round the bend"という「人を苛立たせる」という意味の決まり文句と掛けているようです。もくもくと湧き立つ好奇心が心を占拠しはじめると、元々の恋人への忠誠心は薄れていくもので、そうなると彼/彼女に対する許容範囲が狭くなって、苛立つ場面も多くなりがちです。決まり文句を抜きにしても、丘を越えて見えなくなる車のイメージは、ピークを越えた後の恋に重なります。それは終わりの始まり。あの日、あの時を思い出してしまう・・・

もう元には戻れないと終わりを自覚していても、別れを切り出すことは容易ではなく、これまでの関係性をすっかり断ち切ることも非常に困難なものです恋愛の親密な関係を捨てる時の、身を切るような痛み、ストレス。"Fuck Off"なんかじゃとても足りない、生優しすぎるんです。私にとっては、全部のフレーズそれぞれに、様々な記憶を呼び覚まされてしまう強烈な歌詞です。これだけ共感するということは、あらゆる感情生活の中で、エモーションを感じるポイントがアレックスと似てるんだろうなと勝手に慕っているベラドンナです。

この曲はドラムの変則的なリズムが、出だしからしてすごく魅力的ですよね。そういえば最近、2009年頃のアレックスの髪型が好きすぎて真似してみました。重めのパーマがアンニュイでカッコよくて、美しい・・・


 

さてさて、歌詞にまいりましょう。

Well, the morning was complete
そう、完璧な朝だった
Where there was tears on the steering wheel, dripping on the seat
ハンドルに落ちた涙が、シートにまでこぼれてた
Several hours or several weeks
何時間か、何週間か
I'd have the cheek to say they're equally as bleak
俺は生意気にも言うだろう ずっと同じように希望が見えないって

It's the beginning of the end
それは終わりの始まり
The car went up the hill and disappeared around the bend
車は丘を越えて曲がり角で消えた
Ask anyone, they'll tell you that it's these times that it tends
誰かに聞いてみなよ きっとこういう時こそだって言うから
That it tends to start to break in half, to start to fall apart
真っ二つに割れ始めるのは、バラバラになり始めるのは
Hold on to your heart
自分の心を強く持つんだ

And do me a favor and break my nose
それで、お願いだから俺の鼻をへし折ってくれ
Or do me a favor and tell me to go away
それか、お願いだから失せろって言ってくれ
Or do me a favor and stop asking questions
じゃなきゃ、お願いだから何も聞かないでくれ

Well, she walked away while her shoes were untied
そう、彼女は立ち去った 靴ひももほどけたまま
When the eyes were all red
目を真っ赤に泣きはらして
You could see that we'd cried
俺たちが泣いてたのが分かっただろう
And I watched, and I waited 'til she was inside
それで俺は見届けてたんだ 彼女が中に入るまで
Forcing a smile and waving goodbye
無理やり作り笑いして、さよならって手を振って

Curiosity becomes a heavy load
好奇心は重荷になる
Too heavy to hold, too heavy to hold
抱えているには重すぎる 抑えておくには重すぎる
Curiosity becomes a heavy load
好奇心は重荷になる
Too heavy to hold, will force you to be cold
抑えきれないほどの好奇心は、君に冷酷さを強いるだろう

And do me a favor, and ask, if you need some help
お願いだから、何か俺にできることがあったら言ってくれ
She said, do me a favor, and stop flattering yourself
彼女は言った 「お願いだから思い上がるのはやめて」
And to tear apart the ties that bind
結びつきを断ち切るためには、
Perhaps 'fuck off' might be too kind
「失せろ」じゃ生優しすぎるくらいかもね
Perhaps 'fuck off' might be too kind
「失せろ」じゃ生優しすぎるくらいかもね

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