ベラドンナの部屋

アークティック・モンキーズの歌詞を語ります

There’d Better Be A Mirrorball / Arctic Monkeys【和訳】

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ダンスフロアの狂騒は今は昔。時代遅れのロマンチストのラストダンス。確信させてくれよ、そこにはミラーボールがあるって。 ーThere’d Better Be A Mirrorball

 

こんばんは、ベラドンナです。久々の更新です。
待ちに待った年末年始が、見しやそれともわかぬまに終わりました。惰眠の夢はどうしてこんなにも、手を変え品を変え、ストーリーを不条理に捻じ曲げてでも引き伸ばして、目覚めないための言い訳を作ってくるのでしょう。怠惰の中で、初夢などすっかり忘れておりました。

 

前回の更新からの間、10月にはニューアルバム『The Car』がリリースされ、バンドとしては9年ぶりの来日公演が決まり、喜ばしい限りです。今夜は、アルバム全体への感想と、リードトラックの"There’d Better Be A Mirrorball "について、今更ではありますが、ようやく書いておこうと思います。

 

『The Car』というアルバム

いやー、正直難しかったです。本当はもっと早く新曲について記事を書きたい気持ちではいたのですが・・・今回は歌詞の解釈が難しすぎました。字義通りの内容が分かっても、それが具体的に意味するところを理解するのは難しく。優雅で緻密でメランコリックなラウンジミュージックに自由詩が乗って、頭の中では映画を観ているかのように次々に断片的な映像が浮かびますが、言語化し難いのです。

元々アレックスは、うまくいかない恋愛あるあるだったり、若者のナイトライフだったりを巧みに描写する名手でしたが、前作の『Tranquility Base Hotel & Casino』(2018)ではそれまでの歌詞から大きく転換を見せていました。前作の歌詞は風変わりで難解と評されていることも多いですが、私としてはアルバム全体のストーリーも掴みやすく(そう思っているだけかもしれませんが)、共感も覚えるものでした。月のホテルに住まう往年のスターというキャラクターを演じ、深い孤独感を漂わせながら、現代社会のテクノロジー偏重やコマーシャリズムをシニカルに隠喩的に歌っています。


前作の2曲目の"One Point Perspective"では、「この曲を聴きながらドライブしてた。それとも、全部想像してただけかも。(中略)ちょっと待って、何を言おうとしてたか忘れちゃった。」と歌われます。日常とは、とりとめもない考えを浮かべては何かに中断されたりして忘れてしまうことの繰り返しで、ふと気づけば思いもしなかった場所に行き着いていたりするものだなと、ハッとさせられたものでした。

"One Point Perspective"の記事はこちら。


今回はアレックスいわく、「月から地球に帰ってきた」とのこと。先述の通り、図らずも辿り着いてしまった"月のホテル"という架空の場所から自分の来し方を振り返り、これで良かったのだろうかと延々と自問自答を繰り返していたのが前作でした。今作でも、2曲目のタイトルでも"I Ain’t Quite Where I Think I Am"(俺は、思ってたのとはどうも違う場所にいるみたいだ)と謳われているとおり、現在の場所にいることに違和感を覚えているのに変わりありませんが、たとえ納得してなくても、少なくとも「自分がどこにいるか分かっている。この車の中に。」(アレックス談)というのがこのアルバムのスタンスのようです。

 

この社会で生きている以上、誰しもがどこかの場所を占めているし、「どこにも属さない」というあり方は不可能です。架空の場所から高みの見物をして、社会を外側から眺めていることはできません。また、このコロナ禍は、どれほどテクノロジーが発達したとしても、我々が現実の場所というものに縛られ、制約を受けているかということに変わりはないと再確認させられる機会だったように思います。そんな、現実の場所に縛られながら、時に感傷的になったり、音楽性について語ったり、昔のことを思い出したりと、地上における"One Point Perspective"が今作なのかなというのが、現時点での私の解釈です。

 

ただ、3曲目の"Sculptures of Anything Goes"でも「"共感性"という幻想に穴をあける。雑多なメッセージは、昔歌ってたのとは違うんだ。」と自覚的に歌われているように、安易に共感することを拒むのが今回の『The Car』。音としてはとてつもなく優雅で美しくて、でも歌詞の大部分はハードボイルドで乾いていて、とりとめもなく聞こえ、とっつきにくい。ミニシアターでかかっている、説明が少なくていきなり終わる、難解だけど不思議と印象に残る映画みたいなアルバムです。普段、即効性のあるポップソングに馴染んだ耳には難しく感じますが、感性を研ぎ澄まして格闘する37分間はとても贅沢な時間だと思います。ぜひ聴いてみてください。

There’d Better Be A Mirrorball 


さて、長くなりましたが、今夜紹介するのは『The Car』より、1曲目のリードトラックの"There’d Better Be A Mirrorball "です。曲としても、歌詞としても、歌われている湿り気を帯びた感情をとっても、一番とっつきやすいのがこの曲だと思います。今までのアークティックの曲では恐らくなかっただろう、長いイントロから始まりますが、このイントロの追憶を誘う効果が何しろ凄い。まるで『失われた時を求めて』のマドレーヌの香りみたいな強力さで、忘れていた過去という貯水槽の蛇口を容赦なく緩めてきます。

アレックス本人が監督して16mmフィルムで撮影したというこのPVの、昔の映画のようなざらついた質感のミラーボールの映像も加わると、効果はさらに倍増します。そこで、映像は物憂げに正面を見据えるアレックスの視線に切り替わります。なんというエモさでしょう。胸が締め付けられるような切なさを感じます。


ミラーボールといえばダンスフロア。ダンスフロアといえば彼らのデビューシングルの"I Bet You Look Good on the Dancefloor"(2005)です。ダンスフロアの若者たちの猥雑なエネルギーを、性急なビートに字余りの歌詞を乗せて歌っていた10代のバンドが、17年の長い歳月を経て、ミラーボールのこの静かなバラードを奏でているというのは、なんとも感慨深いものがありますよね。

 

この曲を聴くと、寂れてがらんとした無人の、暗いホールに、埃を被った年代物のミラーボールがぶら下がっているイメージが鮮やかに浮かびます。"It's been nice"という歌詞には、「今まで幸せだったよ、ありがとう。」という別れ話の気配が漂います。主人公は、避けられない破局を覚悟していますが、それでも、煌めくミラーボールのもとでラストダンスを飾りたいのでしょう。素直に読めば恋の終わりの歌ですが、今回のカムバックについてリスナーに向けてメッセージを発信しているようにも取れるかもしれません。ミラーボールの鏡たちは、果たしてどんな心を映すのでしょうか。1曲目から、まるで映画のラストシーンのような始まりです。



それでは、歌詞にまいりましょう。

Don't get emotional, that ain't like you
そう感情的になるなよ、君らしくもない
Yesterday's still leaking through the roof
昨日という日がまだ屋根から漏れてきてる
That's nothing new
そんなの今に始まったことじゃない
I know I promised this is what I wouldn't do
わかってるよ こんなことしないって約束してたことさ
Somehow giving it the old romantic fool
どうしてか、古びたロマンチックな馬鹿をやる
Seems to better suit the mood
その方がムードに合ってるみたい

So if you wanna walk me to the car
そうだね、車まで送ってくれる気なら
You oughta know I'll have a heavy heart
俺が気が重くなるのは分かるだろ
So can we please be absolutely sure
だから、お願いだよ 確信させてくれ
that there's a mirrorball?
ミラーボールがあるってさ

You're getting cynical and that won't do
君は皮肉屋になってる そんなのやめた方がいいって
I'd throw the rose tint back on the exploded view
俺ならバラ色のレンズを通して解像図を見たいさ
Darling, if I were you
ダーリン 、俺が君ならね
And how's that insatiable appetite?
あとさ、どうだい?その飽くなき欲望は
For the moment whеn you look them in the eyеs
しばらくの間、あいつらの目をしっかり見つめて
And say, "Baby, it's been nice"
"ベイビー、良かったよ"なんて言うんだから

So do you wanna walk me to the car?
そうだ、車まで送ってくれるかい?
I'm sure to have a heavy heart
俺は心が重くなるって分かってる
So can we please be absolutely sure
だから、お願いだよ 確信させてくれよ
That there's a mirrorball for me?
俺のためのミラーボールがあるって
Oh, there'd better be a mirrorball for me
ああ、ミラーボールがあるべきなんだよ 俺のためのね

 

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