ベラドンナの部屋

アークティック・モンキーズの歌詞を語ります

She Looks Like Fun / Arctic Monkeys【和訳】

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「おはよう、チーズバーガー」SNSに生活を侵食されているというナンセンスについて ーShe Looks Like Fun


ご機嫌よう、ベラドンナです。春の嵐ですっかり桜も散ってしまいました。

久々に晴れた朝に浮かんだのは「ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ 」という一句。百人一首で一番好きな歌です。こんな穏やかな光に包まれた春の日に、どうして桜だけが慌ただしく、儚く散ってしまうんだろう。柔らかな自然光に包まれて、千年の時を越えて、平安貴族と同じ切なさの感覚を…

ちょっと嘘をつきました。
そんな朝を迎えたかったという夢想です。年度初めの業務多忙、連日の深夜残業に疲労困憊したベラドンナの今朝は、それとは似ても似つかない殺伐としたものでした。耳をつんざくスマホのアラームでこじあけた寝ぼけ眼、とりあえず開いてみるのはTwitterのタイムライン。哲学用語でいう「疎外」ってところでしょうか。

本日鑑賞するのは、まさにそんな歌。主人公の朝は「おはよう、チーズバーガー」から始まります。おそらくは、タイムライン上の。アークティック・モンキーズの6thアルバム「Tranquility Base Hotel & casino」(2018)の9曲目"She Looks Like Fun"は、アレックスいわく「読書に集中したいのに、スマホが気になって進まない状況」から着想を得た歌なんだとか。


アレックス自身はTwitterなどのSNSで発信することはしておらず、過去のインタビューで、「完璧主義者すぎて、何か言葉を発信することへのプレッシャーが強すぎるから」と答えています。こうして今では駄文を垂れ流しているベラドンナですが、ものすごく共感します。つい最近までROM専だったのは同じ気持ちからでした。去に書いた自分の日記を読み返す時のあの強烈な不快感を思うと、それを公開するだなんて正気の沙汰とは思えず。

スタジオに入ってからも周りに止められるまでずっと歌詞を書き直し続けるそうですし、インタビュー中も正確な表現を期するために何度も言い直したり、一語一語言葉を選びながら慎重に話す様子からも、アレックスがいかに完璧主義者で言葉に強いこだわりを持っているのかを推し量れるでしょう。

このアルバムを通じて、アレックスは自己と対話をしているそうで、この歌詞の「バーに突っ立ってる時間を減らさなきゃ。武術と、俺がどれだけそれを尊敬してるかってことについて、赤の他人にひたすら無駄口を叩きながら」というフレーズについても、自分自身のことを言っているそうです。

バーでの赤の他人との邂逅、マーシャルアーツ。
2018年の歌ですが、コロナ禍で文字通りの「通りには誰一人いない」状況を経験した私たちは今、それに代表される「リアルの街」の「生の手触り」を揺り戻し的に求めているのではないでしょうか。歌詞で言及されているブコウスキーは、酒や女、ギャンブルを多く描いたアメリカの作家で、自伝的小説は「酔いどれ詩人になるまえに」という映画になっています。ちなみに、埼玉県川越市に「ブコウスキー」という名前のハンバーガー屋さんがあるみたいです。気になります。


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さて、歌詞にまいりましょう。

She looks like fun
彼女は楽しそうに見える(×4)

Smile like you've got a straw in something tropical
トロピカルなものにストローをさしたような笑顔で*1
I've got the party plugged right into my skull
俺はパーティーを頭蓋骨にプラグインしたんだ
Wayne Manor, what a memorable NYE
ウェイン・マナー*2、なんて記憶に残る大晦日

(She looks like fun) Good morning
(彼女は楽しそうに見える)おはよう
(She looks like fun) Cheeseburger
(彼女は楽しそうに見える)チーズバーガー
(She looks like fun) Snowboarding
(彼女は楽しそうに見える)スノーボード
(She looks like)
(彼女は楽しそうに見える)

Finally, I can share with you through cloudy skies
ついに、曇り空*3を通して君とシェアできるよ
Every whimsical thought that enters my mind
俺の心に浮かぶ気まぐれな考えの全て
There's no limit to the length of the dickheads we can be
どこまで能無しになれるか、限界はないんだ

(She looks like fun) Bukowski
(彼女は楽しそうに見える)ブコウスキー*4
(She looks like fun) Dogsitting
(彼女は楽しそうに見える)犬のお座り
(She looks like fun) Screwballing
(彼女は楽しそうに見える)変人
(She looks like)
(彼女は楽しそうに見える)

Finally, there's a place where you can wag your tongue
ついに、君がおしゃべりできる場所ができたよ
Baby, but why can't we all just get along?
ベイビー、でもどうしてみんな仲良くできないのかな?
Dance as if somebody's watching, 'cause they are
誰かが見てるみたいに踊ろう、だって見られてるし

No one's on the streets
通りには誰一人いない
We moved it all online as of March
3月から全部をオンラインに移行したんだ
I'm so full of shite
俺はくだらないことで満ちてる
I need to spend less time stood around in bars
バーで突っ立ってる時間を減らさないと
Waffling on to strangers all about martial arts and how much I respect them
武術と、俺がどれだけそれを尊敬してるかってことについて
赤の他人にひたすら無駄口を叩きながらさ*5

(She looks like fun) key change
(彼女は楽しそうに見える)転調
(She looks like fun) Re-thinking
(彼女は楽しそうに見える)再考
(She looks like fun) New order
(彼女は楽しそうに見える)新しい秩序
(She looks like fun)
(彼女は楽しそうに見える)


最後に、百人一首に少し触れたので、ベラドンナの幼少期からの愛読書を紹介させてください。詳しいわけではありませんが、歌詞と同様に和歌も好きなんですよね。エモい瞬間、エモい感情を、限られた文字数で練りに練られてエモく表現されているという。歌人の佐佐木幸綱氏の百人一首の口語訳は本当に素晴らしくて、こんな和訳がしたいものだなと思っています。

*1:インスタ女子のアヒル口のこと

*2:バットマンが住む郊外の大邸宅。次の曲のタイトル"Batphone"に繋がります。アレックスは、バットマンが子どもの頃に大好きだったらしい。

*3:クラウドと掛けているのでしょう。

*4:アメリカの作家。海外の掲示板によると、当時のアレックスの彼女、テイラー・バッグリーがInstagramでこの作家について語ったり、犬のお座り画像を投稿していて、アレックスの熱狂的なファンから変人だのなんだのと叩かれていたんだとか。

*5:アレックスのボクシング姿の画像はたくさんネットに転がっていて、どれもすごくイキイキした笑顔で写っています。TLSPの2ndを出した2016年頃から特に、上腕二頭筋の充実っぷりがすごい。