ベラドンナの部屋

アークティック・モンキーズの歌詞を語ります

The Dream Synopsis / The Last Shadow Puppets【和訳】

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夢と現実。切り離せない相反するイメージたち。夢のあらすじを歌にしたら、夢はきっと、ただの夢ではいられない。 ーThe Dream Synopsis

 

ご機嫌よう、ベラドンナです。昨日は史上最悪の悪夢を見て一日中ブルーだったので、下書きに夢の仔細を書いてみました。でも今朝になってみたら、途方に暮れるくらいに自分でも読むに耐えなかったので、全消去しました。

それなのになおも語るかという感じですが、具体的には「過去の幸福な自分」の夢でした。悪魔的なまでにディテールに凝った夢で、途中まで本気で、現実の続編を生きている気に。まるで、自分が蝶になった夢を見ているのか、蝶が自分になった夢を見ているのか分からなくなった胡蝶の夢みたいに。

アークティック・モンキーズの2ndアルバムのタイトルは「Favourite Worst Nightmare」ですが、これは1stアルバムの成功とそれがもたらす取り巻く環境の変化を指しているのかなと思っています。単純な恐怖や苦痛よりも、蜜の味を持つものほど、より厄介で最悪なんです。本日紹介する曲でも言及されますが、アレックスの書く歌詞にはこの「Favourite Worst Nightmare」のように切り離せない相反するイメージが多用されます。

ところで、夢は現実を反映したもので、記憶を整理するために見ているものだとよく言われます。でも、それってあまりに一面的な見方だと思うんです。

昨日ブログのために夢を細部まで思い出して記述してしまった私は、書くことでより明瞭になってしまった夢の記憶に今も囚われています。この囚われは、私が現実に起こすアクションに何かしら影響を及ぼすでしょう。現に、今この文章を書いてしまっているように。現実だって夢を反映したもの。夢も現実も、妄想も虚構も、実は案外混然としているんじゃないでしょうか。

早く曲紹介をしたいのに、夢に囚われて、おまけにモデルナアームで熱に浮かされて、取りとめもない妄想が止まりません。

そこで本日は、その名も"The Dream Synopsis"(夢のあらすじ)という曲をご紹介します。ラスト・シャドウ・パペッツの2ndアルバム「Everything You've Come To Expect」に収録されており、タイトルの通りアレックスが自分の見た夢を歌っています。「他人の夢の話ほどに聞くに耐えないものはないのに、そこにメロディをつけると、不思議と多少は聴けるようになることに気づいたんだ」とアレックスは語っています。以前紹介した同アルバムのボーナストラックの"The Bourne Identity"と同様、繊細で美しい曲です。




ナイトライフでの人間模様や恋愛の苦悩を巧みに描写して若くして高い評価を得たアレックスは、5thアルバム「AM」の成功で、一旦やり切ってしまった感があったんだとか。すっかり大人になって、次はいったい何を歌おうかと模索していた時期なのでしょう。いわば、具象絵画から抽象画の世界へ。この曲にもある「過去や未来への洞察」は、6thアルバムの「Tranquility Base Hotel & Casino」に引き継がれています。

ただの夢の話と言いますが、さすがは詩人アレックス。雪降る故郷のシェフィールドと、この曲を作った時点で居を構えていたヤシの木茂るロサンゼルスのイメージが交錯し、ない交ぜになった鮮やかな映像が浮かびます。彼自身が抱く個人的な切ない郷愁の念を垣間見たようで、非常に興味をそそられます。でもアレックスはこう言っています。「夢という言葉を二度と歌に入れることはしない。もう二度と夢を見ることは許されないんだ。

さてさて、果たしてアレックスはどんな夢を見ているのか、歌詞にまいりましょう。「夢の歌なんて聞かせても退屈だろう」と何度も案じている歌が、「Everything You've Come To Expect」(君が期待してたもの全て)というタイトルのアルバムに収録されてるのって興味深いですよね。きっと確信犯です。

Well we were kissing
そうそう、俺たちはキスしてた
It was secret
秘密でね
We’d had to sneak beyond the kitchen
キッチンの裏で隠れてしなきゃならなかったんだ
Both well aware that there’d be trouble
二人とも、面倒なことになるってよく分かってた
If the manager should find us
店長に見つかったらね
You’d got a leaning tower of pint pots in your hand
君はパイントポットの斜塔を手で運んでた*1
You can carry much more than I can
君はたくさん運べるんだ 俺なんかよりずっとね

And a wicked gale came howling up through Sheffield City Centre
それから、シェフィールドの市街地を邪悪な突風が吹き荒れた
There was palm tree debris everywhere
ヤシの木の残骸がそこら中に散乱してた
And a Roman Colosseum
それと、ローマのコロッセオ
It must be boring when I talk about my dreams
俺の夢の話なんかしても退屈だよね

I’m in a building and I notice
俺はビルの中にいて、気付いたら
That I’m surrounded by the ocean
周りを海に囲まれてるんだ
I get a feeling, I start running
何か予感があって、走り出した
Don’t really know why I am running
なぜ走ってるのかよく分からない
I never really know why I am running ‘til I get caught
一体なぜ走ってるのか本当に分からないんだ 捕まるまでね
Want to wake up to my dream report?
俺の夢の報告で目覚めたいかい?

And the snow was falling thick and fast
それから、雪がどんどん降ってきて
We were bombing down Los Feliz
俺たちはロス・フェリッツ*2を爆走してたんだ
It was you and me and Miles Kane
君と俺とマイルズ・ケインで
And some prick I went to school with
あと、同級生のゲス野郎も一緒にね
It must be awful when I talk about my…
おぞましいよね、そんなことについて話したらさ、俺の…

Visions of the past and possible future
過去と未来の可能性についての洞察
Shoot through my mind and I can’t let go
心を撃ち抜かれて、離れられないんだ
Inseparable opposing images
切り離せない相反するイメージたち
When can you come back again?
いつ戻ってこられるんだ?

And a wicked gale came howling up through Sheffield City Centre
それから、シェフィールドの市街地を邪悪な突風が吹き荒れた
There was palm tree debris everywhere
ヤシの木の残骸がそこら中に散乱してた
And a Roman Colosseum
それと、ローマのコロッセオ
Isn't it boring when I talk about my dreams?
俺の夢の話なんかしても退屈だよね
It must be torture when I talk about my dreams
俺が夢について語ってるなんてきっと拷問だよね

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*1:パイントポットとはビールジョッキのこと。アレックスは10代の頃、シェフィールドのライブ会場でバーテンダーのバイトをしていたそうなので、その頃の記憶でしょうか。

*2:アレックスが当時住んでいたロサンゼルスの地区