ベラドンナの部屋

アークティック・モンキーズの歌詞を語ります

Despair in the Departure Lounge / Arctic Monkeys【和訳】

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出発ラウンジの絶望。俺はバッテリー切れの携帯電話。世界を飛びまわる生活と引換えに失う愛と安らぎ。果たして、成功って何なんだ? ーDespair in the Departure Lounge 

 

こんばんは、ベラドンナです。人生で初めて飛行機に乗り遅れ、次の便も大幅な遅延。柄にもなく来てみたクレジットカード利用者ラウンジにて、無料で飲めるならばと昼から飲みたくもないビールを飲み、酔いたくもないのに酔い、女ひとり、虚しく拗ねておりました。

出発ラウンジって、どちらかといえば希望に満ちたイメージがあるものだと思います。観光へのワクワク感や新たな旅立ちへの希望、帰郷の待ち遠しさ。これから空を飛ぶわけですからね。だからこそ、周りの高揚感の中で、自分だけが絶望していると、余計に孤独が身に染みる。「出発ラウンジでの絶望」を初めて思い知りました。

こんな時にはこの曲、’Despair in the Departure Lounge’を和訳するしかありません。大ヒットした1stアルバム「Whatever People Say I Am, That’s What I Am Not」のツアーの合間を縫ってレコーディングされたEP「Who the Fuck Are Arctic Monkeys?(アークティック・モンキーズって誰だよ?)」(2006)の収録曲です。表題曲を筆頭に、このEPは突然の名声がもたらす負の側面を歌ったもの。

この曲で歌われるのは、「ワールドツアーで世界中を飛びまわる生活が始まって、彼女に会えなくて辛い。各国、各都市のどんな刺激的な景色だってなんの慰めにもならない。」という絶望感。飛行機に乗ったところで、到着するのはまた別の街。帰郷できたところで、彼女が待っていてくれるか確証なんてない。’505’でも歌われていたように、ワールドツアーによって彼女と遠距離恋愛になってしまい、悩んでいたようです。

505の過去記事はこちら。


自分が帰らない間に、彼女の心は離れてしまっているのではないか。そんなことを考え始めると、どんどんひどい気分になっていきます。飛行機の中で面白おかしいシットコムを観て、一時的に気を紛らしてみたところで、コケる芸人に自分自身の状況を重ねてしまう始末。終いには、充電切れの携帯電話に自分を重ねてしまいます。海外の空港って電波弱いところ多いし、充電コンセントも少ないところ多くて、携帯の充電が切れて連絡できなくなると、どっと身体の疲労も覆いかぶさってきて絶望する感じ、私も何度も経験あります。

ワールドツアーで世界中を飛びまわる自分は、傍目には成功者として映るかもしれないけれど、それで恋人を失いかけているのなら、自分にとっては「成功って、勝利って果たして何?」と思ってしまうのが本音この曲の面白さは、全体を通じて恐らくはアレックス本人のことを歌っているのに、3人称、続いて2人称が主で、時たま思わず1人称がひょっこり顔を出してしまうところにあると思います。

苦しみ悩む自分を、「彼は彼女と会えなくて辛いんだ。あいつを励まそうとしたって無駄だよ。慰めになるようなものは一つもないんだ。あいつはツアーまで投げ出しかねないよ。」と突き放して描写し、自らツッコみ、自嘲しているのです。もしかしたら、そうやって自分のことを客観的に、突き放して見ることによっても、一時的に苦悩から逃れているのかもしれません。

一般的な意味でのいわゆる成功を収めても、自分の等身大の尺度を全く見失わず、飄々と、ウジウジと、女々しく遠距離恋愛に悩んでいる感じがいいですよね。突き抜けた女々しさが、逆にロックというか、反逆的というか。まさに「Whatever People Say I Am, That’s What I Am Not」です。かつて、アレックスは「世代の声だなんていうタグは的外れなんだ。俺たちに時代を反映するなんて器量はないよ。それができる人もいるとは思うけど、自分はそこからは距離を置きたい。」と語っていました。

世代が共有する物語なんてファンタジーはなくて、「かくあるべき」というヒーローの神話もない。あるのは「私の物語」だけそういうスタンスにこそ、2022年現在、20代後半であるベラドンナは同時代性を感じ、共感してしまいます。

 


さてさて、歌詞にまいりましょう。

 

He's pining for her in a people carrier
彼はワゴン車で彼女を恋しがってる
There might be buildings and pretty things to see like that
but architecture won't do
見るべき建物や綺麗なものはあるかもしれないけど、建物なんて何の慰めにもならない
Although it might say a lot about the city or town
その都市については多くを語るかもしれないけどね
I don't care what they've got, keep on turning 'em down
俺はみんなが何を得ていたって気にしないよ、断り続けるんだ
It don't say the funny things she does
彼女がする面白いことを言ってくれるわけじゃないんだから
Don't even try and cheer him up because it just won't happen
彼を励まそうとしちゃいけないよ、だって不発に終わるに決まってる

He's got the feeling again, this time on the aeroplane
彼はまた同じ気分に戻っちゃったよ 今度は飛行機の中でね
There might be tellies in the back of the seats in front,
but Rodney and Del won't do
前の席の後ろにテレビがあるかもしれないけど、ロドニーとデル*1だって励ましちゃくれない
Although it might take your mind off the aches and the pains
痛みや苦しみは忘れさせてくれるかもしれないけどね
Laugh when he falls through the bar but you're feeling the same
彼がバーから転げ落ちるのを笑いなよ でも自分も同じ状況だって感じちゃうんだ
'Cause she isn't there to hold your hand
手を握ってくれる彼女がいないからね
She won't be waiting for you when you land
彼女はきっと待ってないだろう、着陸しても

And it feels like she's just nowhere near
彼女は近くにはどこにもいない気がするよ
You could well be out on your ear
君は仕事も投げ出しかねない
This thought comes closely followed by the fear
こう考えた後には恐怖が待ってるんだ
And the thought of it makes you feel a bit ill
このことを考えると、少し気分が悪くなるだろ

Yesterday, I saw a girl who looked like someone you might knock about with
昨日、俺はある女の子を見かけたけど、君が付き合ってる子に似てたんだ
And almost shouted
ほとんど叫びそうになったよ
And then reality kicked in within us, it seems as we become the winners
それで現実が俺たちの中に蹴り入ってきて、まるで俺たちは勝者になったみたい
You lose a bit of summat, and half wonder if you won it at all
ちょっとのことでも負けると、勝ったのかどうか半信半疑になるんだろ

And don't say owt 'cause you've got no idea
何も言ってくれるなよ、だって君には何も分かりっこないんだから
And she's still nowhere near
彼女は今も、近くにはどこにもいないよ
And the thought comes closely followed by the fear
そして、こう考えた後には恐怖が待ってるんだ
And the thought of it makes you feel a bit ill
このことを考えると、少し気分が悪くなるだろ

Despair in the departure lounge
出発ロビーでの絶望
It's one and they'll still be around at three
今1時だけど、絶望の奴らは3時になってもまだ居座ってるだろうね
No signal and low battery
電波は届かないし、バッテリーも尽きそうだよ
What's happened to me?
俺はどうしちゃったんだ?

 

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*1:イギリスの有名なシットコム「Only Fools and Horses」の登場人物。デルがバーから落ちるシーンが特に有名らしい。