ベラドンナの部屋

アークティック・モンキーズの歌詞を語ります

Only Ones Who Know / Arctic Monkeys【和訳】

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近頃じゃ本当のロマンスなんて、なし得ないものというけれど。若き恋人たちよ、君たちは手に入れられたかい? それは恋する二人のみぞ知る。 ーOnly Ones Who Know

こんばんは、ベラドンナです。この記事を書いていたら、10年来の相棒の型落ちMacBook Airが異音を立て始め、ついにその寿命を終えました。今回はピカピカのニューカマーで初めての投稿。全体のコンパクトさは変わらないまま、画面はより大きく、より高画質になってライブ動画視聴がやめられません。アレックスの顔が近いこと近いこと。

本日は、前回の'505'に続いてアークティック・モンキーズの2ndアルバム「Favourite Worst Nightmare」から、リクエストをいただいた'Only Ones Who Know'を和訳します。こんな駄文でも、書いてみることで、同じようにアークティックを愛する方々と繋がることができて嬉しい限りです。

ラストに深い余韻を残す'505'と並んで、アルバムの中でロマンチックなパートを担う6曲目の'Only Ones Who Know'。1曲目のキラーチューン'Brianstorm'から5曲目'Fluorescent Adolescent'までのハイテンションでノンストップな勢いをいったん緩やかに小休止し、センチメンタルに、後半に向けて仕切り直します。

アルバムで聴いていた時は地味な曲だと思っていたのですが、ライブ映像を見たらすっかり印象が変わり、あまりの美しさに痺れました。熱いファンが多い曲で、海外の掲示板を見ていても、一番好きな歌に挙げている方も結構いましたね。この映像は是非とも夜に見てほしい!


歌詞がなかなかに難解で、英語が母語の人々でも解釈は本当に人それぞれです。前回の505でも同じことを語りましたが、聴き手に解釈の余地を残し、記憶を呼び覚まし、自分自身のパーソナルな心のヒダと結びついてそれぞれの物語を心に抱かせてくれるのが、アレックスの書く歌詞の魅力ではないでしょうか。

極論を言えば、出会いの曲とも別れの曲とも取れるこの歌。どのくらいの温度感の言葉をチョイスするか非常に悩ましいですが、「街で初々しい若いカップルに道を聞かれた時に浮かんだ歌。彼らは本当に仲が良さそうで、ちゃんと恋をしてる感じだったから。」というアレックスのインタビューを読んだことがあるので、センチメンタルな中にも希望の光を残すようなイメージを持っています。「'本当のロマンスなんて近頃は成立しない'っていうフレーズがあるけど、俺自身はそうは思ってないよ」とのこと。

恋愛の同じ繰り返しを幾度か経験して、酸いも甘いも知るお年頃になって。街中の若いカップルに勝手に過去の自分を重ねて、妄想を膨らませたことはありませんか?
映画『花束みたいな恋をした』(2021)のラストシーンで、「花束みたいな恋を卒業した有村架純が、花束みたいな恋を今にも始めそうなうら若き清原果耶を見つめる眼差し」の、あの感じ。

最初のバースでは、少年が恋に恋している様が描かれているよう。「ジュリエットはただのお飾り」というフレーズもあるように、彼は、彼女自身にというよりも、異国でのボーイミーツガールという興奮状態に夢中になっているようです。平熱でない、若き日の燃え上がる恋って、往々にしてそういう部分があるものだったような気がします。主人公はカップルに道を聞かれますが、恋の喜びに浸っている二人なら、どこに行ったって最高に楽しくて美しい瞬間を過ごせるものだよねと、自分の過去を重ねているに違いありません。

しかし、どんなに燃え盛った恋だって、その多くは儚く消えるもの。それを痛いほど知っている主人公だからこそ、若い二人を見て、その幸せを願わずにはいられないのではないでしょうか。

2つ目のバースでは、少女について、「連絡を取り続けようって、今までに何人と約束してきたんだろう。でもそんなことに大した意味はないんだ。思い出さえあれば。」と思いを馳せます。この部分、私は『ビフォア・サンライズ』(1995)という大好きな映画を思い出さずにはいられません。異国の地ウィーンを旅するそれぞれ別の国から来た若い男女が長距離列車の中で出会い、翌朝の日の出まで、一日限定の恋に落ちる物語。翌朝になったら、二人ともそれぞれの電車に乗り、それぞれの日常に帰らなくてはならないのです。離れがたいラストシーンで、二人は連絡先も交換せず、半年後の同じ時間、同じ場所で再開するという約束だけを交わします

なぜ連絡先を交換しなかったか。それは携帯電話が普及する前だったからという理由だけではありません。連絡先を交換してしまえば、いつしか義理と惰性で連絡を交わす間柄となり、ロマンスの炎が消えてしまうことを予想したのです。恋の儚さを知り尽くしていた二人だからこそ、この日の美しい思い出を「永遠に続く一日」として記憶に閉じ込めておきたかったのでしょう。

そういえば、彼らも映画の中で現地の人々に訪れるべきオススメの場所を尋ねていましたが、結局そこには行かずに、気の赴くまま歩きまわった場所の全てがキラキラと輝いていましたね。この一日のことは、お互いに別の人と結婚したり離婚したりとそれぞれの人生を歩んでいく中でも、永遠に忘れられない思い出となったということで、続編が第2作、第3作と製作されています。でも、第1作のビフォア・サンライズで描かれた「永遠に続く一日」が完璧すぎて、続編は観られないでいるこじらせベラドンナです。

さてさて、歌詞にまいりましょう。みなさんもぜひ、それぞれの物語を思い描いていただけたらなあと思います。

In a foreign place, the saving grace was the feeling
異郷の地で、彼の救いはこんな感情だった
That it was a heart that he was stealing
自分が奪ったのは心なんだって
Oh, he was ready to impress 
ああ、彼は気に入られようと準備万全だったよ
And the fierce excitement, the eyes are bright, he couldn't wait to get away
激しい興奮で瞳は輝き、彼はデートが待ちきれなかった
And I bet that Juliet was just the icing on the cake
きっとジュリエットは単なるケーキの上のお飾りだったんだ
Make no mistake, no
間違いないよ

And even if somehow we could have shown you the place you wanted
そして、たとえどうにか、君たちが行きたい場所を教えてあげられたとしても
Well, I'm sure you could have
まあ、俺は確信してるよ
Made it that bit better on your own
君たちは自分の力でも、もうちょっとうまくいったはずだって

And I bet she told a million people that she'd stay in touch
それから彼女はきっと、数多の人に連絡を取り続けようって言っただろうね
But all the little promises, they don't mean much
でも、そういう小さな約束たちに大した意味はないんだ
When there's memories to be made
思い出さえ作れていればね
And I hope you're holding hands by New Year's Eve
君たちが大晦日には手を繋いでいてほしいよ
They made it far too easy to believe
あまりにも容易く信じさせられてしまうものだからさ
That true romance can't be achieved these days
近頃じゃ本当のロマンスなんてなし得ないって

And even if somehow they could have shown you the place you wanted
そして、たとえどうにか、君たちが行きたい場所を教えてもらえたとしても
Well, I'm sure you could have
まあ、俺は確信してるよ
Made it that bit better on your own
君たちは自分の力でも、もうちょっとうまくいったはずだって
You are the only ones who know
恋する二人のみぞ知る