ベラドンナの部屋

アークティック・モンキーズの歌詞を語ります

Star Treatment / Arctic Monkeys【和訳】

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思えば遠くに来たものだけど、それなのに、忘れたいと思えば思うほど、過去はバックミラー越しに取り憑いて離さない -Star Treatment

 

ベラドンナの部屋へようこそ!

恋愛と仕事に疲れた、お年頃のOLベラドンナと申します。
ある日突然、UKインディーロックを代表するバンド、アークティック・モンキーズにどハマりし、行き場のない熱量を持て余しているので、ブログで駄文を書き始めます。

普通に世界的に有名なバンドなのでご存知の方も多いことは承知の上ですが、なんといっても歌詞が凄い!!

ベラドンナは恋愛に疲弊してからというもの、古今東西の恋愛小説を一気に50冊ほど読み漁ったのですが、最終的に今の自分に一番スッと入ってきて素直に泣けたのが、アークティック・モンキーズのフロントマン、アレックス・ターナーが書く歌詞だったんです。いつかまたご紹介しますが、最初にグサりとやられたのはSpotifyのランダム再生で流れてきた"Fluorescent Adolescent"。まさにベラドンナような、青春が後ろ姿を見せ始めたように感じている、めんどくさいお年頃に差しかかった女の歌なんです。

英語にそこまで自信もなく、主に自ら浸って疲れた羽根を癒すためではあるのですが、どこぞの誰かに一人でも何かが伝わったらいいな、共有できたらいいなという淡い期待もほんのり込めて、感傷に浸りつつ鑑賞していきます。物好きな方がいらっしゃいましたら、お付き合いくださいませ。

 

 

"TRANQUILITY BASE HOTEL AND CASINO"というアルバムについて


アークティック・モンキーズは今までに6作のアルバムを出していて、それぞれのアルバムごとにガラリと作風を(ついでにアレックスの髪型も)変えています。どれも短編小説集のようで面白く、10代から30代まで人生のフェーズの移り変わりと共に歌う内容が変化していく様にもグッときて、どこから書き始めるか悩ましいのですが、まずは今年の初夏にリリースされると噂の新譜に備えて、直近の6作目の『TRANQUILITY BASE HOTEL AND CASINO』(2018)から復習して、歌詞の世界を味わっていきたいと思います。

5作目までは変化はしつつも常に王道のギターロックバンド然としたサウンドを鳴らしていたのですが、初めてギターを使わずにピアノで作曲したという今作では、洒脱なラウンジミュージックに乗せてまるでポエトリーリーディングかのような囁き声で歌うようなスタイルになり、賛否両論を呼びました。

まずは1曲目の「Star Treatment」から。初っ端なので、このアルバムのコンセプトを紹介するような内容になっています。アルバムに先行して公開されたメイキング動画のタイトルの「Warp Speed Chic」も、この歌の歌詞からとられています。この「ワープスピードのシックさ」というのは、アルバムを貫くテーマなのでしょう。レトロフューチャーな感じをうまく表現してますし、語感も良いですよね。

 名声も富も手にしてロサンゼルスの高級住宅街に居を構えている今の自分*1は、普通の一少年として街を観察し、イギリスの地方都市の郊外の退屈や乱痴気騒ぎを醒めた目で歌っていたデビュー当時の頃からはあまりにも立場が変わってしまった。恋愛についても歌い尽くてしまった。過去に書いた歌詞は他人の歌みたいに感じて、歌う気になれないものもあるくらい。大型新人と騒がれていたデビューシングルのPVの時にも既に、冒頭で「Don't believe the hype(誇大宣伝を信じるな)」と訴えかけていたくらいのメタ認知能力の塊みたいな人なので、本当に悩みまくっていたと思います。そうそう、彼の歌にはあらゆる分野からの引用が隠れていて、まさにメタフィクション的なんです。

そんなアレックスの「産みの苦しみ」から創り出されたのが、この月面の架空のホテルでした。現実をそのまま描写するのではなく、架空の場所という舞台装置を用いて、架空のキャラクターに仮託して語らせるSF小説のようなスタイルでなら、ちょうどいいくらいの解像度で現実を照らし出すような歌詞を率直に書けたということなのでしょう。

それでは、前置きが相当長くなりましたが歌詞を見ていきましょう!

思えば遠くに来たものだけど、それなのに、忘れたいと思えば思うほど、過去はバックミラー越しに取り憑いて離さないもの。中原中也の「頑是ない歌」にも通ずる切なさを感じます。


Star Treatment【和訳】

 

I just wanted to be one of The Strokes
俺はただ、ストロークスの一人になりたかっただけなのに*2
Now look at the mess you made me make
今じゃ見てくれよ、このとっ散らかりようさ 君たちのせいで
Hitchhiking with a monogrammed suitcase
モノグラム柄のスーツケースを持ってヒッチハイクへ
Miles away from any half-useful imaginary highway
半ば実用的などんな架空の高速道路からも何マイルも離れて
I'm a big name in deep space, ask your mates
俺は宇宙空間では有名なんだ、仲間に聞いてみてくれ
But golden boy's in bad shape

でも、早咲きのスターは調子が悪い
I found out the hard way that
苦労の末に分かったんだよ
Here ain't no place for dolls like you and me
ここには君や俺みたいな人形の居場所はない
Everybody's on a barge floating down the endless stream of great TV 1984, 2019
みんな艀に乗って、偉大なるテレビの無限の潮流を漂ってるんだ 1984年から2019年まで

I was a little too wild in the '70s
70年代には俺は少しワイルドすぎたかもな
Rocket-ship grease down the cracks of my knuckles
ロケットの油が指の関節の隙間に落ちるよ
Karate bandana, warp speed chic
空手のバンダナ、ワープスピードのシックさ
Hair down to there, impressive moustache
髪を下ろして、印象的な口ひげを*3
Love came in a bottle with a twist-off cap
愛はボトルに入ってやってきて、ねじり止めのキャップが付いてるんだ*4
Let's all have a swig and do a hot lap
みんなで一杯やってフリー走行しようぜ

So who you gonna call?
で、誰に電話するんだい?
The Martini Police
マティーニ警察さ
Baby, that isn't how they look tonight, oh no
ベイビー、今夜は彼らはそんな姿には見えないよ
It took the light forever to get to your eyes
君の瞳に光が届くまで永遠にかかった

I just wanted to be one of those ghosts
俺はただ幽霊の一人になりたかった
You thought that you could forget
君は忘れられるって思ってた
And then I haunt you via the rear view mirror
そして俺は、バックミラー越しに君に取り憑いてる
On a long drive from the back seat
長いドライブで後部座席からね
But it's alright, 'cause you love me
でも大丈夫、だって君は俺を愛してるんだから
And you recognise that it ain't how it should be
そして君は、それはあるべき状態じゃないって分かってる
Your eyes are heavy and the weather's getting ugly
君の瞳は重たげで、天気は悪くなってきた
So pull over, I know the place
だからさ、車を止めてよ 俺はこの場所を知ってる
Don't you know an apparition is a cheap date?
過去の人が現れるみたいな幻影なんて、チープなデートプランだって知らないの?
What exactly is it you've been drinking these days?
最近は一体、何を飲んでるんだい?
Jukebox in the corner, "Long Hot Summer"
隅っこのジュークボックスで流れるのは "Long Hot Summer"*5
They've got a film up on the wall and it's dark enough to dance
壁にはフィルムが貼ってあって、踊るには十分な暗さだね
What do you mean you've never seen Blade Runner?
ブレードランナーを観たことがないってどういうこと?

Oh, maybe I was a little too wild in the '70s
ああ、70年代には俺はちょっとワイルドすぎたかもな
Back down to earth with a lounge singer shimmer
ラウンジシンガーみたいな輝きで地球に帰還
Elevator down to my make-believe residency
エレベータで降りて、架空の住処へ
From the honeymoon suite
ハネムーン・スイートから
Two shows a day, four nights a week
1日2回、週4夜の公演
Easy money
あぶく銭

So who you gonna call?
で、誰に電話するのかい?
The Martini Police
マティーニ・ポリスさ
Oh, baby, that isn't how they look tonight
いやベイビー、彼らは今夜はそんな姿はしてないよ
It took the light absolutely forever to get to your eyes
君の目に光が届くまで、間違いなく永遠にかかるんだ

And as we gaze skyward, ain't it dark early?
空を見つめてると、暗くなるのが早くない?
It's the star treatment
それは星が歓迎してるんだよ
Yeah, and as we gaze skyward, ain't it dark early?
ほら、空を見つめてると、もう暗くなってきたんじゃない?
It's the star treatment
それは星の盛大なもてなしさ

*1:この後もきっと色々あって、2020年にイギリスに帰国して現在はロンドン在住のようです。

*2:アレックスはストロークスに憧れてバンドを始めたと昔から語っています。この歌詞に対して、当のストロークスのフロントマン、ジュリアン・カサブランカスがInstagramで「俺はずっとアークティック・モンキーズに入りたかったよ」と投稿したのはなかなか胸熱なエピソードです。

*3:歌詞での説明のとおり、アレックスは長髪&髭のラウンジ歌手然とした姿でこのアルバムを引っさげて表舞台に戻ってきました。一部のファンからは「どうか髭を剃って」の嘆願書も寄せられました。

*4:ポリスの超名曲、"Message in a Bottle"のボトルをイメージが浮かびます。

*5:Long Hot Summer ポール・ウェラーがフロントマンを務めたバンド、スタイル・カウンシルの80年代のヒット曲。