ベラドンナの部屋

アークティック・モンキーズの歌詞を語ります

One Point Perspective / Arctic Monkeys【和訳】

にほんブログ村 音楽ブログ 洋楽へ

疫病に天災、戦争。黙示録がついに優先されるとき。ちょっと待って、何考えてたんだっけ。 ーOne Point Perspective 


ご機嫌よう、ベラドンナです。

今夜鑑賞するのは、アークティック・モンキーズの6thアルバム「Tranquility Base Hotel & Casino」の2曲目、"One Point Perspective"です。

アルバム「Tranquility Base Hotel & Casino」の概要については、前回記事で語っております。
さて、この曲のタイトルの意味は「一点透視図法」。

最初聴いた時はよく分かりませんでしたが、何回も聴いているうちに、この歌のような「とりとめもない考えを浮かべては、何かに中断されたりして忘れてしまう感じ」を毎日どれだけ経験しているかに気づいてハッとなりました。人との会話だって、人生それ自体だって、その一貫性のない繰り返しの結果、気づけば図らずもこんな所に辿り着いてしまったよ、というようなものかもしれません。

ライブでは"I lost my train of thought"と歌った後、アレックスが虚空を見つめながら「何考えてたか忘れちゃった」のジェスチャーをするのがお決まりになっています。「黙示録がついに優先されるとき」というフレーズが出てきますが、終わらないコロナ禍に地震に戦争と、2022年現在、どんどんその言葉がリアリティを持ってきたように感じます。



 

一点透視図法について


古くはダ・ヴィンチの『最後の晩餐』などに使われていたことで有名ですが、アレックスが好きなキューブリック監督も映画の中で多用していた構図で、今回製作された"Four Out of Five"と表題曲"Tranquility Base Hotel & Casino"のミュージックビデオは明らかにそのオマージュと見受けられるシーンが多いです。

こちらの動画は、キューブリックの映画の中で一点透視図法が使われたシーン集です。
"Tranquility Base Hotel & Casino"と"Four Out of Five"のMVと見比べてみると、アレックスのキューブリック愛がよく分かります。


"Four Out of Five"

 

"Tranquility Base Hotel & Casino"


 

One Point Perspective【和訳】

 

Dancing in my underpants
パンツ一丁で踊ってる
I'm gonna run for government
俺は政治家に立候補するつもり
I'm gonna form a covers band anorl *1(Stop)
俺はカバーバンドを結成するつもり(ストップ)
Back there by the baby grand*2
小さなグランドピアノの側に戻る
Did Mr. Winter Wonderland say, "Come 'ere, kid, we really need to talk"?
ミスター・ウィンター・ワンダーランド*3は"ちょっと来い、話がある "って言ってたっけ?
Bear with me, man, I lost my train of thought
ちょっと待って、何考えてたんだっけ

I fantasise, I call it quits
俺は空想に耽ったり、空想をやめたりする
I swim with the economists
俺は経済学者と一緒に泳ぐ
And I get to the bottom of it for good
そして、俺は永久に真実を突き止めるんだ
By the time reality hits
現実にぶち当たるまでは
The chimes of freedom fell to bits
自由の鐘は粉々に砕け散った
The shining city on the fritz
光り輝く街は機能不全
They come out of the cracks, thirsty for blood (Stop)
彼らは血に飢えて裂け目から出てくる(ストップ)

Oh, just as the apocalypse finally gets prioritised
ああ、黙示録がついに優先されるとき
And you cry some of the hottest tears you ever cried
Multiplied by five
君は今までで一番熱い涙を流すんだ 5倍もね
I suppose a singer must die*4
俺は歌手なんて死ぬべきだと思う

"Singsong 'Round the Money Tree"
"金のなる木を囲んで歌おう"
This stunning documentary that no one else unfortunately saw
この素晴らしいドキュメンタリーは、不幸にも見る者はいない
Such beautiful photography
It's worth it for the opening scene
美しい撮影で、冒頭のシーンを見るだけでも価値がある
I've been driving 'round listening to the score
この曲を聴きながらドライブしてた
Or maybe I just imagined it all
それとも、全部想像してただけかも
I've played to quiet rooms like this before
昔こんな風に静かな部屋で演奏したことがあったな
Bear with me, man, I lost my train of thought
ちょっと待って、何を言おうとしてたか忘れちゃったよ

*1:anorl イギリス北部の言葉でas wellのこと。Arctic Monkeysのアルバムごとの方言の使用率の変化を調べた論文によると、リアム・ギャラガーも揶揄していた通り前作AMまでは減少傾向にあった方言が、今作Tranquility Base Hotel & Cashinoでは少し復活してるそう。初期には強いシェフィールド訛りで歌う地元密着スタイルでしたが、グローバルに羽ばたくにつれて方言もスラングも薄まっていきました。アルバムタイトルの"Tranquillity"もイギリス英語で書くなら"Tranquillity"になります。

https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/0963947019827075

*2:Baby Grand ビリー・ジョエルがレイ・チャールズをゲストボーカルに迎えた楽曲。歌手とピアノの関係を歌っている。

*3:Winter Wonderland クリスマスソングとしても知られる。前段でも触れられたレイ・チャールズの歌ったバージョンが有名らしい。

*4:A Singer Must Die アレックスが敬愛するシンガーソングライター、詩人のレナード・コーエンの楽曲。「歌手は歌った嘘のために死ななくてはならない」と歌う。